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実は不自然な体勢、仰向けでのお産の5つのデメリット

現代では、お産といえば分娩台の上で仰向けの姿勢で産むスタイルが一般的です。でも、実は近代医療で分娩台が使われるようになる前は、立て膝、しゃがむ、四つん這い、立ったままなど「垂直位」での出産が主流でした。逆に横になって出産することは例外的だったのです。

仰向けでの出産は欧米から広まりました。では、なぜ仰向けで出産するようになったのでしょう。その変化は近代医療の発展とともに起こったと言われています。19世紀に入るまでに、それまでの助産婦の仕事が男性医師に取って代わられていきました。そして、分娩を管理し、何かあった時に早期に応急措置ができるようにするために分娩台が導入されたのです。その後、分娩台は急速に普及し、それまでの坐位や立位での伝統的なお産は「遅れた前近代の出産方法」とみなされるようになりました。

©Wikipedia/Bad-seed/public domain

日本では、分娩台の導入はさらに遅く、1960年代まではほとんどの妊婦さんが産婆さんや近所の女性たちの力を借りて、自宅で立ったり、座ったり、しゃがんだりして出産していました。

では、逆になぜ古代からずっと女性は横になって出産することを避けていたのでしょうか。以下に説明するように、仰向けでのお産は解剖学的には好ましくないことが分かっています。かつての女性たちは、仰向け出産の弊害を体感として、あるいは集団的記憶として理解していたのでしょう。

仰向けでのお産の5つのデメリット

1. 重力:分娩中に立ったり、座ったり、しゃがんだりすると、重力の作用で赤ちゃんが降りて来やすくなります。一方、仰向けで出産すると、産道が斜め上向きになるため、母親と子どもは重力に抵抗しなければならず、無理な腹圧が必要になるのです。

©Wikipedia/OpenStax College/CC-BY-4.0 (bearbeitet)

2. 骨盤:妊娠中は骨盤の構造がゆるみ、関節のように柔軟になります。これは骨盤の間を通って生まれる赤ちゃんの通り道を広げるための大切な体の変化です。しかし、横になると骨盤がが固定され、産道が平均2 cm狭くなると言われています。さらに、骨盤の可動性が制限されるため、胎児が産道内で回転するのが難しくなってしまうのです。

©Wikipedia/Henry Grey/gemeinfrei (bearbeitet)

3. 大静脈:仰向けでは、平均で5 kgの 胎児・胎盤・羊水が母体の下大静脈の上に乗ることになります。血液循環の最も重要なラインの一つである下大静脈が圧迫されることで、母子への酸素供給が著しく低下することが指摘されています。

©Wikipedia/Andreas Vesalius/public domain (bearbeitet)

4. 分娩刺激:母親が上体を起こしていると、胎児の頭が子宮頸部を圧迫します。この刺激が子宮の収縮を活性化し、お産を促進します。しかし、横になって出産すると、この刺激が得られないため、分娩が平均3時間遅くなると言われています。

©Wikipedia/G. Blanchard Aoineko/CC BY-SA 3.0

5. 会陰裂傷および緊急帝王切開:仰向けでの分娩は、他の姿勢での分娩よりも無理な腹圧がかかるため、重度の会陰裂傷や緊急帝王切開が起こりやすくなります。もちろん、横になって出産すると必ず会陰裂傷や帝王切開になるというわけではありません、しかし、以前はこうしたリスクを避けるために垂直位で出産することが好まれたと考えられています。

こちらは19世紀の”バースチェアー”お産するための椅子です。

©Wikipedia/Andreas Praefcke/gemeinfrei

現在では主流となった病院での仰向け出産は、医師の処置のしやすさを主眼にしたスタイルであり、人類史で見るとその歴史はほんのわずかでしかありません。

そのため、世界保健機関(WHO)は以下のような提言を出しています。「低リスクの産婦には、出産中においても、体を動かしたり、上体を起こした姿勢をとったりするよう勧めることが推奨される」

こうしたことを背景に、お母さんと赤ちゃんが最も楽な姿勢になるように、分娩台を使わず、自由に動き、自由な姿勢で出産するかつての出産方法が、「アクティブバース」や「フリースタイル分娩」などと呼ばれて、見直されているのです。

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どのようなスタイルの出産にもメリットとデメリットがありますが、現代では出産に伴うリスクが低くなっていることもあり、可能な限り妊婦さんの希望にそった出産を叶えることができるようにサポートしてくれる助産院や病院が増えています。

妊婦さんにとって出産は人生の大切なイベント。さまざまな形の出産が可能なことを知り、自分はどう産みたいのかを考え、家族やお医者さんともよく相談した上で、気持ちよく出産に臨めるといいですね!

プレビュー画像: ©Wikipedia/Bad-seed ©Wikipedia/AndreasPraefcke

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