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体の一部も道具に|美しい日本の伝統工芸「爪掻本綴織」

みなさん、突然ですが、この爪を見て何を想像しますか?

Twitter@Sksk72957267

弦楽器を弾く人の爪?それともアート?実はこれ、爪先をギザギザにして、道具として使い織物を仕上げる爪掻本綴織(つめがきほんつづれおり)の職人さんの爪なんです。

この爪掻本綴織は、京都を代表する絹織物である西陣織の一つ。西陣織は1976年に経済産業省指定伝統的工芸品にも指定され、中でも綴織は日本美術織物の最高峰と呼ばれるもの。

機械は使わず人の手足のみで操作する「綴機(つづればた)」を使用し、ノコギリの歯のようにギザギザに刻んだ爪で、1本1本、糸を掻きよせる「爪掻(つめがき)」という伝統的な技法で織り描いていきます。

爪掻本綴織では、文様となる糸を必要な部分に必要なだけ爪で1本1本織り込みます。必要な部分に必要なだけ織るため、ジャガード織機の綴のように織巾全体(左右)にヨコ糸が通らず表も裏も同じ文様が表れるのもその特徴のひとつ。織っている時に見えているのは裏面で、織師は表面の文様をイメージしながら織ります。

「日に寸、五日に寸、十日に寸」と伝えられるほどの月日と高度な技術が必要であり、複雑な文様になると1日にわずか1cmしか織り進めないものも。

また、爪掻本綴織には型紙や図案がなく、まるで白いキャンパスに絵を描くように下絵をみながら、色形を成すための技を頭のなかで描きながら織ります。 絵から織り描く文様を創造しながら絵の具の色を混ぜ合わせるように多彩な糸をよりあわせる、線を引くように濃淡を表現するよう爪掻の技術を駆使して文様は織り描かれていきます。

体の一部を道具として使う職人の方々。爪はやすりを使って丁寧にギザギザにしています。

職人の技と感性が詰まった作品の数々がこちら。

7年かけて織り上げたという俵屋宗達の「風神雷神」。

18世紀終わりから19世紀初頭にかけ起こった産業革命。それまで手工業中心だった生産業が機械工業になったことで大量生産が可能に。人々の暮らしは便利なものへと変わりました。

もっと便利に…と技術が目まぐるしいスピードで発達していく現代ですが、そんな中でも数百年もの間、美しい手仕事を守り続ける日本の伝統工芸の数々。その数は全国で現在約1,300種類と言われ、中でも経済産業大臣によって伝統的工芸品として指定されたものは235品目あります。

昨今は後継者問題などを耳にする伝統工芸ですが、一方で若い世代が次世代に伝統工芸を残そうと、さまざまな活動をしています。今回の爪掻本綴織をTwitterで紹介した清原 聖司さん(@Sksk72957267)もその一人。「綴織を百年後も残すこと」をミッションとし、多くの人が綴織を手に取れるようにと新たな挑戦をし、その様子をInstagramで発信しています。

世界に誇る日本の美しい手仕事。伝統を守りつつ進化するその姿は、いつの時代も人々を魅了してやみません。

プレビュー画像:©︎Twitter/Sksk72957267

体の一部も道具に|美しい日本の伝統工芸「爪掻本綴織」体の一部も道具に|美しい日本の伝統工芸「爪掻本綴織」