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ヘルスケア

「胎児性アルコール症候群」妊娠中の飲酒が胎児に与える影響

アルコールが子どもにとって有害であることは周知の事実です。まさか、生まれたばかりの赤ちゃんの哺乳瓶にお酒を入れたり、夕食のときに幼児の前にワイングラスを置いたりする人はいないでしょう。

しかし、子どもがおなかの中にいる間は飲酒してもそれほど問題ないと思う人もいるようです。2013年の厚労省の調査によると、日本の妊婦さんの飲酒率は4.3%。この数値は年々減っていますが、厚労省では妊娠中の飲酒率0%を目指しています。

この厳格な目標値には理由があります。新しい研究により、妊娠中の飲酒がこれまで考えられていたよりもはるかに大きな影響を胎児に及ぼすことがわかってきたのです。

この記事では、妊娠中の飲酒の影響についてご紹介します。

妊婦さんがお酒を飲むとどうなるの?

妊娠中にアルコールを飲むと、アルコールはフィルターを通さずに胎盤を通過して胎児の血液に入り、母親の血液と同じアルコール濃度になります。胎児の肝臓はまだ十分に機能していないため、アルコールを適切に分解することができません。その結果、アルコールは母親の体内の10倍もの時間、子どもの体内に留まることになります。

子どもの体内でアルコールは細胞分裂などに影響を及ぼします。その結果、臓器の奇形や機能不全を引き起こすだけでなく、さまざまな障害につながることがわかっています。

Alison with a wine glass and tummy

妊娠中にはどのくらいなら飲酒しても大丈夫?

妊娠中の飲酒について、どのくらいの量なら子どもにとって危険なのか、またどのくらいまでなら問題ないのかを一概に言うことはできません。わかっているのは、たとえ少量であっても、子どもの発達に影響を与える可能性がある、ということ。そのため、医師は不必要なリスクを避けるために、妊娠中はアルコールを一切飲まないことを推奨しています。

ちなみに、アルコールはほぼ1対1で母乳に移行するため、これは母乳育児にも当てはまります。

妊娠がわかる前の妊娠初期の飲酒の影響についても、はっきりとしたことはわかっていません。しかし、妊娠初期は胎児の器官形成期なので、流産や奇形などを引き起こす可能性があります。つまり、子どもを産む予定があるなら、今すぐにお酒をやめることは大きな意味のあることです。

Pregnant Silhouette

妊娠中のアルコールがもたらす影響

妊娠中の飲酒による被害は、「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)」と呼ばれています。なかでも、特に極端なものは「胎児性アルコール症候群(FAS)」と呼ばれています。胎児性アルコール症候群(FAS)の子どもたちには、次のような特徴があります。

FASの子どもたちの身体的特徴

  • 特徴的な顔貌(上唇が狭い、まぶたの隙間が短い、鼻と口の間にシワ(人中)がない)
  • 発育の遅れ(体が小さく、体重が軽い)
  • 中枢神経の問題(頭蓋骨と脳が小さい)
©Getty Images

FASの身体的・精神的な障害

妊娠中の飲酒は、脳障害や心臓障害などの器質的奇形から、運動障害、イライラや落ち着きのなさ、集中力の低下などの行動障害まで、子どもに多くのダメージを与えます。注意力が低下することから、ADHD(注意欠陥障害)と診断される例もよく見られます。

その他の障害

  • 言語障害
  • 記憶力の低下
  • 空間認識能力の欠如
  • 衝動性
  • 原因と結果の関係を理解することができない
  • 計画性の弱さ
Fussy

胎児性アルコール症候群(FAS)の子どもたちには、言葉の問題、集中力の欠如、記憶力の低下などがみられ、学校に行くことが困難になります。空間認識能力の欠如や運動障害のために、自転車に乗れなかったり、障害物に気づくのが遅れて転倒して怪我をするケースもみられます。

衝動のコントロールができないため、すぐに攻撃的になり、他人と衝突してしまい、社会的な活動に問題が生じます。原因と結果の関連性を理解できないことが多いため、他人から搾取されたり、性的虐待を受けたり、犯罪行為に関わってしまうこともあります。

計画性がないため、モチベーションを高めたり、目標を設定したりすることが難しく、目標を達成するための方法や、問題が発生した場合の対処方法を見出すことができません。これは、学生時代でも問題になりますが、特に子どもたちが成長して仕事を始めたときに問題になります。

©Getty Images

FASの一番重大な問題は、治療ができないこと。そのため、FAS患者の3分の2は大人になっても自立して生活することができず、助けを必要としています。

現時点でFASには治療法はありません。たったひとつできることは妊娠がわかった時点で、あるいは妊娠を計画した時点で母親が禁酒することだけなのです。厳しいようですが、少なくとも妊娠中と授乳中は完全にアルコールを断つことが将来の赤ちゃんを守ることにつながります。

出典: apotheken-umschauquarks, apotheken-umschau

プレビュー画像: ©Flickr/Brett L. ©Getty Images