DIY
学校を中退した15歳の少年は森に入る。彼が森に自ら建てたものに、政府は息をのんだ。
1959年のある日、英語の教師はジムに向かって声をあげました。「君は一生、何事も達成することはないだろう」それを聞いたジムは静かに荷物をまとめ、学校を立ち去ります。そしてそのまま二度と帰って来ることはありませんでした。このときジムはまだ15歳の少年でした。
ジム・ビショップはその頑固な性格のままで生きてきました。唯一彼が強い興味を持ったもの…それは自然でした。彼が住む米国コロラド州のプエブロという町の西にはロッキー山脈がそびえ、そのふもとには大きな森が広がっていました。芝刈りや新聞配達、両親の経営する店での手伝いなど、複数の仕事をかけもちながらジムは少しずつ貯金を増やし、ついにずっと憧れていた森を購入することに。美しい景観で有名なサンイザベル国立公園。彼はここの1万㎡ほどの土地を、わずか450ドルで購入します。
ジムがこの森を買った目的、それはここに自ら家を建て、そこに住むという夢を叶えるためでした。しかしこの願いが叶うことはありませんでした。なぜなら彼は、生涯をかけて家ではなく別のものを建設し続けたることになるたのです。そう、家よりもはるかに巨大な建築物を…
森を手に入れた最初の夏、ジムは父親とともに作業に取り掛かります。テントを立てて寝泊まりし、斧やシャベルなどを駆使して土地をならし、建物の基礎となる地盤を作るところからスタートしました。しかし、丸一年かけてようやく彼らが立てることに成功したのは、小さな小屋一棟。ジムは資金のほとんどを土地の購入に充ててしまったため作業費用を捻出することができず、ほとんど他人の助けを借りずにたった一人で作業を続けることになってしまったのです。そこら中に転がる石を集め、積み上げて建物を作り続けました。
さらに、作業に大きな影響を与える要因がもう一つありました。このあたりは海抜3000メートルを超える高地にあったのです。このため森には5月中旬まで積雪が残り、建築の際にモルタルを使用しても乾く前に凍ってしまいます。作業は困難を極めました。
しかしジムの決意は揺るぎませんでした。友人たちはジムの家をからかい、石造りのその建物がまるで中世の城みたいだと冷やかします。それを聞いていたジムは、あるときふと考えました。「でも、中世の城か…それもいいな。よし、自分の城を建ててみせる」
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周囲の人々はジムの言うことを真剣に聞こうとはしません。「そんなの無理に決まってる。大体そんなもの作るなんて、いくら費用が掛かると思ってるんだ」。しかし、こうした批判はジムの反骨精神を刺激するだけでした。彼はエッフェル塔などにみられるような支えの鉄骨を取り入れ、石造りの家を少しずつ大きくしていきます。
わずか15歳の少年が目指した自分だけの城。この夢はやがて、一人の人間が立てた建造物としてはアメリカ史上最も大きい建物を生み出すこととなっていきます。
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「僕が信じるものはたった一つ。自分自身で作り上げてきたものだけさ」鉄の意思を誇るジムは後にこう語っています。彼は石を拾い、木を切り倒して木材に加工し、使われなくなって放置されていた列車からも資材を調達していきます。装飾などは両親の経営する小物店で買うこともありましたが、モルタルなどの資材は自分で作りました。
作業は気が遠くなるような長い時間を必要としました。現在75歳の老人となったジムに作業がいつ終わるのかと聞くと、彼は笑ってこう答えます。「完成が早いか、それとも僕が墓の中に行ってしまうのが早いか、どっちだろうね!」
実際ジムがこの城に住んだことは一度もありません。かれは城の隣に作った丸太小屋で寝泊まりし、彼の元を訪れる観光客向けにちょっとしたお土産屋も経営していたそうです。結果的にこの城自体は、観光客向けのオブジェとなっているのです。例えば城の中の巨大なホールは、ここでウェディングを挙げたいというカップルのために提供しています。
また、城の内部も観光客向けに開放しているといいます。ただし、安全は担保できないという注意事項を踏まえて、という形にはなりますが…「人間というのは、危険な場所だという意識さえあれば安全に気を付けるようになるものさ」ジムはにやりと笑ってこう言います。
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実はジムのこの城は、国が定める建築要件を満たしていません。それどころか、彼のこの活動は法的に言えば様々な違反を重ねているのです。そのため彼はこれまでに何度も警察に連行されたり、裁判への出廷を求められてきました。
彼が犯してきた違反には、例えば国立公園の石を盗んだ、というようなものも含まれます。しかし、もし行政が本格的に取り締まりを行えば、それはつまりジムの生きがいを完全に奪うということになってしまいます。幸いにして、裁判所これまでジムの行為は問題のあるものではないという判断を下してくれています。
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しかし、物事はそういい方向に進むとも限りません。数年前、体調を崩して検査を受けたジムは、自らの身体に珍しい種類の腫瘍ができているという事実を知りました。またパーキンソン病の疑いがあるという診断も受けたそうです。さらに2018年3月には、彼がささやかに営んできたみやげ物店が火事で焼け落ちてしまいました。そして同じ年の8月には、妻のフォービーをがんで失うという試練を迎えています。
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それでもジムには、他人に助けを求めるという考えは全くないといいます。「私もここの物は極力触れないようにしているんです」ジムの息子のデイビッドは話します。「父は、少なくとも自分の目の黒いうちはたった一人でこの城を作り上げていきたいと本気で考えているんですよ」
「なんでこんなことをしているかって?そうだな…この城を通じて、自由とは何かを伝えたいんだ。人はその気になりさえすればなんだってできるのさ。そのことをみんなもっと理解しなきゃいけないね」とジム。
実際、ジムの手作りのこの城ほどロッキー山脈にふさわしい造形は他にあるでしょうか?
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大ホール
自立式の鉄橋
上から見た様子
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大ドーム
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城の中
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美しいステンドガラス
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15歳の少年が思い描いた夢を、当時誰も信じる人はありませんでした。しかしジム・ビショップは自分の生涯をかけて見事に実現したのです。様々な困難に直面している彼ですが、それらを乗り越えて、きっとこれからも素晴らしい景色を私たちに見せてくれることでしょう!
