医療分野でのキメラ利用:動物の体内で人間の臓器を育てる

上半身がひとで下半身が馬のケンタウロス、顔から胸がひとで翼と下半身を持つハーピー、そして人魚。 ひとと呼ぶべきか、動物と呼ぶべきかためらってしまう神話上の「キメラ」の代表です。

でも、キメラは神話上の生き物ではなくなっています。動物とひとの区別があいまいな生き物を生み出すことが、可能になるかもしれません。東京大学の中内啓光特任教授は、人口多能性幹細胞(iPS細胞)を使って、ブタの体内でひとの膵臓をつくる研究を実施する方針を明らかにしています。人間のiPS細胞をブタの受精卵に注入し(動物性集合胚)、ブタの子宮に入れ、胎児まで育てた後に膵臓を取り出すという手法を用いるそう。もし研究がうまくいけば、将来的には膵臓だけでなく肝臓や腎臓の作成も検討しているようです。ひとの臓器を動物の体で作るので、臓器移植を何年も待つ必要がなくなるかもしれません。

Patricia Piccinini’s Curious imaginings. Vancouver Biennale

Symbolbild (Kunstwerk von Patricia Piccinini)

(※ ↑画像のような半獣人は生まれません)

臓器移植、どれくらい必要?

日本では臓器移植件数は他の先進国に比べまだまだ少なく、アメリカの年間約2万5千件に対し日本では年間300件程度にとどまっています。今も1万3500人が臓器移植を待っています。しかもたとえ移植手術をしたとしても、拒絶反応を起こす可能性もあり、再び臓器移植が必要となることもあります。

Organ transplant

倫理的な問題

誰もが思いつくのは、人間と動物の融合体だとか、半獣人が生まれるのではないかという懸念を持つ人もいるでしょう。でも、計画ではブタと人の遺伝子が混ざることはなく、人の細胞でできた膵臓を持つブタが生まれるだけです。その一方で最悪の場合を想定する研究者もいます。というのは、未知の領域の研究には思いがけない結果や産物が生まれる可能性もあるからです。

もしも人間の細胞がブタの脳で増殖してしまったら、理論的にはブタは新たな認知能力と知性を備えることになります。「人間の知性がブタの体に閉じ込められている状態になったら、恐ろしいことです」モンペリエ大学病院の細胞工学研究所のジョーン・デ・ボ所長は言います。動物の体から人間の臓器を取り出すことに反対する人はあまりいないとしても、人間の知性を持った動物の体から臓器を取り出すことになったとしたら…。

082

これまでにも同様の研究はアメリカでも行われてきましたが、人間の細胞を動物の受精卵に混ぜる実験は倫理上の懸念から規制がかけられていました。日本では、東京大学内の倫理委員会と国の専門委員会による審査で認められれば、今年度中にも国内で初めて人の臓器を持つ動物を作る実験に着手となります。

「研究室では、(遺伝子操作などの)技術で倫理的な懸念を回避できるだろう」カリフォルニアのソーク研究所のベルモンテ教授は言います。また、動物性集合胚を人の子宮へ移植することや、生まれた動物の子供を他の動物と交配させることなどは法律で禁止されています。

一刻も早い医療分野でのキメラの活躍が期待される一方、人と動物の境界線はどこなのかという古代ギリシア以来の不変の問いについて考えさせられます。みなさんはどう思いますか?

コメント

おすすめの記事