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北海とバルト海海岸で見つかる「燃える石」は世界大戦の残骸だった


ヨーロッパ北方の北海とバルト海には美しいビーチがあります。ビーチを散歩していると、運がよければ、琥珀やその他の美しい石を見つけることができるでしょう。

でも、見つけた石をズボンのポケットに入れてはいけません。石だと思ったものが、実は危険な「燃える石」である可能性があるからです。

「燃える石」の正体は弾薬の残骸。では、いったいなぜ北海やバルト海に弾薬の残骸があるのでしょうか。そして、その残骸の正体とは?

この記事では北海やバルト海の海底に眠る弾薬や兵器についてご説明します。

北海やバルト海に弾薬の残骸があるのはなぜ?

第一次世界大戦(1914-1918)では、有毒ガスや手榴弾などの化学兵器が初めて使用されました。第二次世界大戦(1939-1945)ではその数はさらに増えます。そして、2つの世界大戦を通して、大量の未使用の化学兵器が北海やバルト海に投棄されたのです。

ドイツ連邦環境庁によると、北海とバルト海の海底には、約160万トンの弾薬と約5,000トンの化学兵器が眠っています。これらの兵器の残骸は海流によって徐々に陸に流されています。

弾薬の残骸の危険性とは?

海底に残された弾薬や兵器は時限爆弾のように徐々に海洋を汚染しています。爆弾や地雷などの金属は塩水のなかで徐々に腐食し、その結果、ヒ素やマスタードガスといった危険な有害物質が海域に漏れ出しているのです。漏れ出した有害物質が海流に乗って周辺海域全体を汚染していくことが危惧されています。

また、海岸に流れ着いた弾薬の含有物が「燃える石」となって人々に危害をもたらしています。弾薬には琥珀(アンバー)と見た目がよく似た「白リン」が含まれています。白リンは、20~40℃の温度で燃焼する物質。そのため、琥珀だと思って「石」をズボンのポケットに入れておくと、人間の体温(37.5~38.0℃)で温められて発火してしまうのです。

Amber stones

白リンは最高1,300℃の熱で燃え、水で消すことができません。逆に、水和によりリンは燃え広がります。砂で火を抑えることはできますが、完全に消火できるのは特殊な消火器だけです。そのため、白リンをポケットに入れて発火してしまうと、筋肉組織にまで浸透する重度の火傷を負う危険性があります。実際に悲惨な事故が起きており、現地では看板などで人々の注意を喚起しています。

対処法

白リンは、琥珀と紛らわしいほどよく似ています。重さや光沢もほぼ同じです。ですから、もし、浜辺で琥珀に似た石や弾薬と思われるものを見つけたら、以下のアドバイスに従ってください。

  • 海岸で見つけたものはズボンのポケットに入れず、金属製の缶に入れて回収する。
  • 弾薬を見つけたらそのままにしておき、沿岸警備隊や観光案内所に報告し、爆発物処理局に連絡してもらう。
  • 拾ったものについて確信が持てない場合は、専門家に調べてもらう。どうしても持ち帰りたい場合は、密封した瓶に入れておく。また、リンに火がついたときのために、砂を用意しておく。
  • 琥珀を見分けるための一般的な「コツ」は絶対に適用しない。たとえば、噛むと毒のあるリンが体内に入り、服でこすると発火する。
  • もしリンが発火した場合は衣服ごとを脱ぎ捨てて、救急車を呼ぶ。

ちなみにリンを人が拾って事故が起きる危険性は、夏よりも冬の方が高くなります。夏の気温では、流れ着いた弾薬は勝手に燃えてしまうので、収集家がそれを見つけることはほとんどありません。冬の寒さの中では「石」は暖かい環境、たとえば人の手に渡った時に初めて燃え上がります。

なぜ弾薬や兵器は回収されないのか?

海底から弾薬や兵器の残骸を引き揚げようとする努力はずっと続けられています。何しろ、70年以上も海底に放置されており、深刻な海洋汚染の原因になっているのですから。しかし、ドイツの生物学者のフランク・ルドルフ博士によれば、回収作業には高いコストがかかるうえに、とにかく量が膨大なのです。「バルト海の海底に保管されている弾薬の残骸をすべて貨物列車に積み込もうと思ったら、フレンスブルクからガルミッシュまでの距離を往復する長さになるだろう」ちなみに、これはほぼ2,000kmに相当します。

A walk on the beach

墓地などでは、死体から作られた白リンが自然発火して青白い炎をあげることがあり、これがいわゆるヒトダマであることはよく知られています。2度の世界大戦の名残が海岸に流れ着き、現代の私たちの前でヒトダマのように燃え上がることがあるなんて本当に驚きです。海外のビーチで綺麗な石を見つけた時には十分に注意してください。

出典:geo , schleswig-holstein.nabu , schleswig-holstein , federal environment agency , stones-and-minerals

プレビュー画像:  ©Instagram/thewanderinggatherer  ©Flickr/Mike