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水の事故を防ぐために知っておきたい背浮きについて

子供の夏休みが始まり、ビーチや川、またプールへ出かける予定をしているという人もいるのではないでしょうか。

しかし、残念ながら毎年水の事故は絶えず発生し、尊い命が犠牲になっています。水難事故の多くが、釣りやボート遊びといった水遊び中の事故で、その際に着衣のまま水難事故に遭っているケースが多いと言われています。着衣のままでは、泳ぎに慣れている人であっても泳ぐのは難しく、また泳ぐために服を脱ごうとしても、その間に体力を奪われ溺れてしまうのだそうです。

水難事故にあった時にまず最優先しなくてはいけないのが呼吸の確保です。しかし、119番に救助を要請してから救助隊が現場に到着するまでの平均時間はおおよそ8分30秒と言われ、この間泳ぎ続けるのは、溺れかけてパニックになった場合や、着衣のままでは非常に困難です。

では、救助までの間どうやって呼吸を確実に確保することができるのでしょうか。

水難事故にあった時は「背浮き」

近年、水難事故に遭った際に呼吸を確保し命を守るために推奨されているのが「背浮き」という方法です。背浮きとは、口と鼻を水面より上に出し、おむけになって浮かぶ方法。この背浮きをすることで、着衣のままでも体力を奪われることなく、生存率を上げることができるのです。

水難事故にあった時は助かろうとやみくもに泳ぐのではなく、背浮きをして「浮いて待つ」ということが非常に大切なポイントとなってきます。また、背浮きは泳げないという人でもコツさえ掴めば浮くことができる方法なのだそう。

背浮きでは、両腕を広げて、顔部分は耳まで水につけ、顎を上げ、お腹を突き出すように体を反らせてバランスを取ります。手を下げてしまうと、足から徐々に沈んでしまうため、大の字になり体を浮かせます。顎が下がっても、腰が曲がってお尻から沈んでいくため、顎もしっかりと上げ続けます。

また、空のペットボトルを抱え仰向けに浮く「ペットボトル浮き」という方法もあります。ペットボトルの浮力によって背浮きの体勢が安定し、浮いていられるようになります。

注意:背浮きは正しい指導を受けた人のみが、ほかの人に教えることができる方法です。絶対に自己流で練習をしないようにしてください。また、2020年度からは学習指導要領が改訂され、小学校高学年の水泳授業でクロールと平泳ぎに加え、安全確保につながる運動として「背浮き」が組み込まれています。

背浮きにより命が助かるというのは、水難事故だけでありません。2011年の東日本大震災の際、津波が押し寄せた宮城県東松島市のある小学校で、避難所の体育館に海水が押し寄せた際、一人の小学生が授業で習ったという背浮きをしたことで助かったそうです。この小学校では、10年来、着衣泳の授業が行われていました。この小学生も、6年間に渡って着衣泳の授業を受けていたため、咄嗟に背浮きを実践することができたのです。このように、背浮きを習得しておくことは、水遊び中の事故だけでなく、大雨によって冠水してしまった時などにも、生存率を上げる方法として役立てることができます。

水難事故に遭遇した時にやってはいけないこと

水の事故が起きた際に、命が助かる確率を上げる背浮きですが、以下のような行動は逆に命を脅かす行動だと言われています。

・手を挙げて大声で「助けて」と叫ぶ

従来、溺れた時は手を挙げて助けを呼ぶと言われてきましたが、これは逆効果。人の体は空気を吸うことで、体の2%を浮かせることができるそうです。しかし、手を挙げてしまうと、手が2%に当たってしまい、呼吸が確保できなくなります。さらに、助けて!と声を上げることで肺から空気が抜けてしまい、体が浮かず、水中へ沈んで行ってしまうのです。そのため、慌てて叫んだりせず、背浮きをするようにします。

・溺れている人を助けるために周囲の人が飛び込む

冒頭でも紹介したように、着衣のままでは泳ぎ慣れている人でも泳ぎ続けることが困難です。また、溺れている人のところまでたどり着いたとしても、溺れている人は、必死で抱きついてくるので、その力で一緒に溺れてしまいます。そのため、絶対に飛び込んで助けに向かうということはしないでください。毎年、溺れた人を助けようとして、泳ぎに飛び込んだ人が命を落とすという非常に痛ましい事故が多数起きています。

水難事故に遭遇した場合は、すぐに119番通報し、溺れた人には背浮きをして浮いて待つように声をかけ、落ち着かせるようにします。また、身の回りにペットボトルなど、浮くものを溺れている人の近くに投げるようにします。この際、遠くへ投げるためにペットボトルに水を入れるなどは絶対にNGです。ペットボトルの飛距離は出ますが、重みのあるペットボトルは溺れている人にとって凶器でしかありません。

水難事故をあらかじめ防ぐには、ライフジャケットを着用しておくことが1番の防止対策となります。しかし、万が一に備え、背浮きを習得し、慌てず浮いて待つということを念頭に置いておきたいですね。

背浮きについては、一般社団法人水難学会が全国の小学生を対象に背浮きによる「浮いて待て技能」の普及を推進しています。詳しくはこちらをご覧ください。

水の事故に関する記事はこちらもご覧ください。

出典:NHK, 日経
プレビュー画像:©︎Pinterest/freepik.com