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Lifehacks

性別による差別をなくす|有害な男らしさという概念

「女の子なんだから、〜しなさい」と女性なら人生において、必ず1度は親や周囲の人から言われたことのある言葉。中には希望した進路や就職のチャンスを「女性」であるがため、諦めざるをえなかった、というやりきれない思いをしたという人もいると思います。

この伝統的に社会に根付き、無意識に私たちの中に埋め込まれている男女という性差からくる偏見。しかし、この偏見に苦しい思いをしているのは女性だけではありません。

2019年に公開された映画アクアマンで日本でもブレイクしたハリウッド俳優、ジェイソン・モモア。その年のオスカー授賞式での彼の装いはピンクのスーツでした。

普段からピンクの服を好んで着るというジェイソン。そんな彼にある日「なぜ(男性なのに)ピンクばかり着るの?」という質問が投げかけられたといいます。その時のジェイソンの答えは至極シンプルかつ私たちの胸に突き刺さるものでした。

「ピンクが好きなのは、単純に美しい色だから。それで自分の男性らしさが揺らぐことはないし、誰がどう思おうと、まったく気にしていない」

その答えは、「ピンクは女性、男性はブルー」と言った社会に根付く、女らしさや男らしさの固定概念に一石を投じるものだったのです。男女の性差別をなくすという社会の動きの中で、「女性だから」とか「女だから」と行動を制限されてきたと苦しい経験を語る女性は多くいます。しかし、「男だから」とか「男なんだから」という言葉に長年苦しんできた男性も同様に数多くいるのではないでしょうか。

「男はつねに強くあれ」「男たるもの涙は見せるな」などと、古くからある男らしさの既成概念を押しつけ、男性の感情表現や行動を制限する「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」という概念が、近年日本でも注目をされるようになっています。

「男は男らしくすべき」という無意識に社会で生み出される無言のプレッシャー。この概念は、もともと1980年代後半にアメリカの1人の心理学の教授により提唱され、当初は「男性が感情を抑え込むことで、ときに暴力的な激しい爆発にいたること」と男らしさが時に社会へもたらす弊害を指していたと言われます。

しかし、近年では有害な男らしさという概念は、社会によって設定された「男らしさ」により、その「らしさ」に沿わない行動や思想を否定や排斥すること、または男らしさに異常に執着し同性である他者に強制する考えを指すようになりました。

このような有害な男らしさは、男性間での多様性をかき消し、既存の男らしさに共感できない男性を苦しめることになると言われています。また、男らしさに従う男性も、自分の中の脆さを隠さねばならず、悩みを相談できなかったり、男らしさをキープしなければという緊張にさらされたり、苦しんでいると言われています。

この社会に潜む有害な男らしさという考えが、近年では男性のメンタルヘルスに悪影響を与えていると問題視もされているほどです。男性の自殺率が女性の3.5倍とされているアメリカで行われた調査では、泣かない、感情を表さない、リスクを恐れないなどと言ったと、古くから男らしいとされていたステレオタイプに従う男性は、そうでない男性に比べると自殺率が2.5倍も高かったという結果も出ています。

日本でも昨年から続くコロナウイルスによる生活様式の変化に伴い、この有害な男らしさに苦しんでいると実感する男性やその家族が増えていると言われています。コロナで先が見えない不安の中「自分の稼ぎで家族を養わねば」という思いや「男なら弱音を吐かない」というステレオタイプの考えに基づいた行動が、自分自身を精神的に追いつめる結果となっています。

そしてこの有害な男らしさは男性だけの問題ではありません。「男ならこうあるべき」という考えから男性同士の仲間内での価値観の共有に使われ、これが結果的に同性愛差別につながる危険性があると言われています。

また、「勇敢で強く、たくましい」といった旧来の男らしさへの過剰なこだわりが、「女よりも男が上」などという差別意識を生みだし、女性蔑視や性暴力を引き起こす原因にもなり得ると言われています。家庭内では、先に紹介したように男性らしさに囚われた結果、不安を募らせつつも表に出せない精神的な辛さがストレスとなり、家庭内暴力の原因につながる可能性が高いのです。

世界でいち早く男女平等を推進してきたと言われるスウェーデンでは、自治体などが設立した、男性のための相談機関「男性危機センター」があります。そこでは専門のカウンセラーが常駐し、「相談したがらない」傾向にある男性の心を開きカウンセリングをしているそうです。

一人一人が自分らしく生きられる社会であれ、と誰もが願う現代。冒頭に紹介したジェイソン・モモアのようにステレオタイプの男らしさに翻弄されまいと、自ら向き合おうとする人たちが増えつつあります。ですが私たちの日常にはまだまだ無意識に植え付けられた男女の性差による偏見が数多く存在し、お互いを苦しめているという点があるのは確かです。

それぞれが性別に囚われず自由に自分自身のライフスタイルを選択できる社会を目指す中、この有害な男らしさという問題に目を向けることは、私たちがジェンダーの問題において新しい視点や気づきを持つことにつながっていきます。

プレビュー画像:©︎Pinterest/VOGUE JAPAN